熊本地方裁判所 昭和38年(ワ)264号 判決 1965年5月17日
原告 室原知幸
被告 国 外一名
代理人 広木重喜
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
事 実 <省略>
理由
請求原因第一、二項の事実および同第三項のうち、伐採樹種、本数を除き、その余の事実は、当事者間に争いがない。
そこで、本件許可処分に達法事由があつたかどうかについて検討する。
まず、原告は、本件許可処分において、試掘等を行う地域が特定していない、と主張する。けれども、成立に争いのない甲第三号証の一、二によると、本件許可処分の対象となつている地域は、原告主張の九筆の土地のうち、許可証に添付の図面に表示された部分であり、該図面は縮尺五百分の一の図面であつて図面上表示の地物地形によつて適用区域は十分特定できる。原告は、右図面表示の地域には右九筆以外の土地が含まれていると主張しているが、これを認めるに足りる立証がないのみならず、かりに、そのとおりだとしても、右九筆以外の土地は許可の対象となつていないから、右図面からこれを除いた地域だけが許可地域となることは明らかである。以上によると、本件許可処分の地域は特定していないとは言えず、この点の原告の主張は採用できない。
次に、原告は、本件許可処分においては、伐除すべき障害物が特定していない、と主張する。本件許可処分においては、伐除すべき障害物の範囲を、許可地域内にある用材木六〇〇本、雑木二〇〇石、粗だ一〇〇束、看板二ケ所、柵(鉄線)一六〇メートルと表示していることは、成立に争いのない甲第三号証の一により認められる。
証人赤崎勇の証言によると、本件許可処分の地域は、その大部分を、試掘等の工事をするための試掘ケ所、道路、材料置場、掘さく土砂置場などとして必要であり、同地上の立木なども右工事の障害となるため伐除を要するが、一部分は伐除しなくてもよいところがあつたところ、本件許可処分申請にあたり、原告らから事前の立入り調査が拒否された結果、充分な調査ができず、本件許可地域を展望できる土地から望見して調査し、右地域および障害物を特定するほかはなく、このような状況のもとで本件許可の申請およびその許可処分が行われたことが認められ、これに反する証人姉川勝美の証言は採用しない。
弁輪の全趣旨(被告らの釈明)によると、本件許可処分における「伐除すべき障害物の種類および数量」の算出の根拠は、
(1) 用材木六〇〇本については、本件試掘等を行う土地のうち、訴外穴井隆雄所有地上に生立していた杉立木(二五年生以上のもの)であるが、当時同訴外人が起業者の立入りを拒否したため、やむなく津江川左岸(本件許可地域の対岸)傾から望見して調査したほか、現地山林の事情に精通していた訴外川野知平の意見を求めて、その数量を算出したものであること。
(2) 雄木二〇〇石については、本件試掘等を行う土地のうち、原告および訴外穴井隆雄所有の薪炭林の立木であるが、右原告らが立入り調査を拒否したため、やむなく図面に基き右薪炭林の面積を求め、樹令については、前記訴外川野知平の意見をきき、かつ阿蘇郡小国町森林組合が調査した「小国町南小国薪炭林収獲表」を適用して、その石数を算出したものであること。
(3) 粗だ一〇〇束については、本件許可地域に生立する杉立木および薪炭木を除いた一切の雑木であるが、その生育状況を考慮して、一〇坪あたり一束の割合で右雑木の生育する地積により、算出したものであること。
(4) 看板二ケ所については、本件許可地域のうち、字鳥穴五、八二八番の二の土地で津江川に接する川岸に巾約一米、長さ約三メートル程度の看板(「下筌ダム反対」と記載したもの)が、二ケ所に各一個づつ立てられていたものであること。
(5) 柵(鉄線)一六〇メートルについては、本件許可地域と津江川との境界一帯に立入りを妨害する目的で張りめぐらされていた鉄線で、その長さが一六〇メートルであること、
以上のとおりであつたことが認められ、反証はない。
以上の各認定事実によると、熊本県知事が、起業者である九地建局長の申請に基いてした本件許可処分において、その伐除すべき障害物の特定に関し毎木調査の不実施にもとづくいささかの不正確さのあることは窺知されるけれども、本件許可申請にあたり、原告らが立入り調査を拒否したものであり、右拒否するについて正当の理由があつたとの立証もない以上、前示のような方法で障害物を特定し、その数量を算出したからといつても、これをもつて、本件許可処分を違法であるとまで断することはできず、原告のこの主張も理由がなく、採用のかぎりではない。
さらに、原告は、本件許可処分にあたり、土地収用法上の手続が行われていない違法がある、と主張している。しかしながら、瑕疵、成立に争いのない乙第四号証、同第五号証の一ないし六、同第六号証、甲第三号証の一、二、同第四、五、六号証、証人赤崎勇の証言および弁論の全趣旨を総合すると、原告主張のような土地取用法上の手続は、適法に履践されたことを推認することができ、これに反する立証はない。したがつて、原告のこの点に関する主張も理由がない。
以上のとおり、本件許可処分の無効を前提とする原告の本訴請求は、その前提事実が認められないので、その余の争点について判断をするまでもなく失当として、棄却を免れない。
よつて、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 後藤寛治 亀岡幹雄 安田実)